Blenderを使ったライティングを解説します。Blenderが用意している4種類のライトの特徴と各パラメーターの設定方法を詳細に説明しています。4種類のライトを使いこなし、適材適所の使い分けが出来るようになりましょう。
ライティングの準備
ライトを確認する為の準備を行います。今回は現実世界と同様の写実的(フォトリアル)な画像を作成します。
レンダーエンジンの設定
現時点でのBlenderには、「EEVEE」「Cycles」の2つのレンダーエンジンが搭載されており、それぞれ用途が異なります。今回は写実的(フォトリアル)な画を計算できる「Cycles」を使用します。また、レンダリングにGPUを使用することにより、計算時間を早めます。
Cyclesとは?
現実の光の挙動に基づいたライティングを行い、反射や屈折、間接照明を正確に計算します。
- 利点: 光の反射や屈折、間接光などが正確に再現される。
- 欠点: レンダリング速度が遅く、重いシーンでは長時間の計算が必要になることがある。

レンダープロパティ(カメラのアイコン)をクリックします。
- レンダーエンジン:Cycles
- デバイス:GPU演算
ビューポートシェーディングモードを変更
ビューポート上でライティングが確認できる状態にします。

右上のビューポートシェーディングアイコンから「レンダープレビュー」に切り替えます。
→設定したライトの効果がリアルタイムでシーンに反映されます。
「EEVEE」と「Cycles」でビューポート表示やライトのパラメーターが変わる
「EEVEE」と「Cycles」では計算方法が異なるため、ビューポートの表示やライトプロパティに表示されるパラメーターが変化します。最初は戸惑うかもしれませんが、最初にこの違いを理解しておくことで使い分けるポイントも明確に区別できるようになります。




環境ライトの無効化
Blenderのビューポートは初期状態で天球による環境光が反映されています。この環境光はレンダリング時には反映されない為、ビューポートとレンダリング画像にライティングの差異が生じます。この差を無くすため、環境ライトの影響を受けないようにします。

- ビューポートシェーディング右側の「 をクリックしてオブションウィンドウを開きます。
- 「シーンのワールド」チェックを入れます
(または天球の「強さ」を0.000にします)。


4種類のライトの設定方法
Blenderの標準ライトである4種類のライトについて特徴と使い方を解説します。
※ここではプルダウンメニューの順番に解説していきます。

追加(Add)>
ライト(Lights)>
ポイント (Point Light)
サン (Sun Light)
スポット (Spot Light)
エリア (Area Light)
ポイントライト(Point Light)
ポイントライトは、点から360度全方向に光を放つライトです。
裸電球やキャンドルのような、光源が一点に集中し、その周囲を均等に照らす光を当てるときに使用されます。


トランスフォームの影響
移動(位置)のみ編集が可能です。
回転(角度)、スケール(大きさ)の影響は受けません。
【共通】カラー(Color)
光の色を設定します。たとえば、暖色系の光で暖かい雰囲気を、寒色系の光で冷たい雰囲気を演出できます。

Red1.0 Green0.6 Blue0.3

Red0.4 Green0.7 Blue1.0
色温度(Color Temperature)について

色温度とは、光の色を温度(ケルビン、K)で表したものです。色温度が低いほど暖色系(赤やオレンジ)、高いほど寒色系(青や白)に近くなります。
たとえば、夕日の色は約2000K、昼間の太陽光は約5500K、曇り空や日陰では6500K以上です。
Blenderではケルビンで色を設定できませんが、上記を意識して色を決定することで、より現実の世界に近づけることが出来ます。

Autodesk Maya(Arnold)のライトには色温度を数値(ケルビン)で設定できるパラメーターがあります。
【共通】パワー(Power)
光の強さ(ワット単位)を調整します。値を上げるほど明るくなります。

100W

10,000W
ライトの一般的な電力値の表
現実世界の光 Power(パワー) ライトの種類(参考) ろうそくの炎 0.05 W Point(ポイント) 800 ルーメンの LED電球 2.1 W Point(ポイント) 1000 ルーメンの 電球 2.9 W Point(ポイント) 1500 ルーメン PAR38 投光器 4 W Area(エリア) 2500 ルーメン 蛍光灯 4.5 W Area(エリア) 5000 ルーメン 車のヘッドライト 22 W Spot(スポット)サイズ125度 https://docs.blender.org/manual/ja/latest/render/lights/light_object.html#power-of-lights
【共通】ソフト減衰(Soft Falloff)
ライトが他のオブジェクトと衝突した際に起こる不具合を軽減します。通常はオンのままでOKです。

ON

OFF
【共通】半径(Radius)
光の半径を決定します。値が大きいほど面積が増え、影がぼやけます。

0.01

1.0
【共通】最大バウンス数(Max Bounces)
シーン内で光がオブジェクトに反射する回数の上限を設定します。ポイントライトから発せられた光がオブジェクトに当たり、シーン内で複数回反射して間接光を生む場合、バウンス数が多いほど光の反射がリアルになります。反射が不要な場合やレンダリング時間を短くさせたい場合は値を下げます。

0

8

16
【共通】影を生成
ライトによって影を作成するかどうかを決定します。オンにすると、ライトから照らされた物体が他のオブジェクトに影を落とすようになります。オフにすると、影が生成されなくなります。影が不要な場合やレンダリング時間を短くさせたい場合はオフにします。

ON

OFF
【共通】多重重点(Multiple Importance)
オブジェクトの間接光や反射の計算の際のノイズを減らすことができます。光源の鏡面反射にも影響を与えます(グラスに移るハイライト)。パフォーマンスを重視する場合はオフにします。

ON

OFF
【共通】シャドウコースティクス(Shadow Caustics)
光が透明や反射する物体(ガラスや水など)を通過した際に発生する特殊な光の効果です。これをオンにすると、光がオブジェクトを透過して曲がったり、反射したりする際にできる集光効果(コースティクス)が再現されます。特に水面の反射やガラス越しの光のゆらぎをリアルに表現するために使われます。
計算に時間が掛かるので必要な場合にオンにし、それ以外のシーンではオフにして計算の負荷を減らします。

ON

OFF
オブジェクト側の設定
シャドウコースティクスをレンダリングで確認する際はライト側の設定のほかに、オブジェクト側にも設定が必要です。
影を映す側(ワイングラス)
オブジェクトプロパティから
シェーディング
コースティクス
☑シャドウコースティクス投影

影を受ける側(床)
オブジェクトプロパティから
シェーディング
コースティクス
☑シャドウコースティクス受信

サンライト(Sun Light)
サンライトは、シーン全体に均一に光を照射するライトです。屋外のシーンや日中の自然光を表現するのに適しています。光源が非常に遠くにあり、光が平行に進み、影も同じ方向に投影されます。


トランスフォームの影響
回転(角度)のみ編集が可能です。
移動(位置)、スケール(大きさ)の影響は受けません。
強さ(Strength)
光の明るさを調整します。曇りの日には 250 ワット前後、直射日光の当たる日には 1000 ワット以上が一般的です。
太陽光の一般的な強度値
太陽型 Strength(強さ) 晴れ 1000W/ ㎡ 曇り空 500W/平方メートル 曇り空 200W/ ㎡ 月光 0.001W/ m2 https://docs.blender.org/manual/ja/latest/render/lights/light_object.html#power-of-lights
角度(Angle)
地球から見たときの角度直径に応じた太陽光の大きさを変更します 。角度が大きいほど影が柔らかくなります。曇りの日の光を再現する際に角度をあげる、といった応用が可能です。

0°

10°

30°
スポットライト(Spot Light)
光が特定の範囲に集中し、円錐形に光が広がります。特定の物体やエリアに焦点を当てたいときに使います(例えば、人物を強調したい場合)。光が届く角度や範囲を調整することで、強いコントラストやムードを作り出せます。


トランスフォームの影響
移動(位置)、回転(角度)、スケール(スポットサイズ)の編集が可能です。
半径(Radius)
光源の半径です。値を増やすと面積が大きくなるので影の輪郭がぼやけます。スポットライトの特徴として、影と共に光の境界もぼやけます。

0.0

1.0
角度(Spot Size)
光の円錐形の広がりを調整します。狭い角度だとスポットライトのように特定の場所だけを照らします。

10

60

120
ブレンド(Blend)
光の中心から境界までの広がり部分のグラデーションを調整します。値を大きくするとライトの境界の輪郭が弱まり、柔らかな印象になります。オブジェクトの影は影響を受けません。

0.0

1.0
コーンを表示
ビューポート上の円錐を立体的に視認できます。チェックをいれるとオブジェクトにライトが当たる場所がハイライト表示されるので視認性が高まります。レンダリング結果に影響はありません。

エリアライト(Area Light)
エリアライトは、平面上に広がる光を放つライトです。室内の照明やスタジオライティングなど、物体に柔らかく光を当てる際に使用されます。現実の照明と同様の効果が得られるため、フォトリアルな画像を生成できますが、比較的計算に時間が掛かります。


トランスフォームの影響
移動(位置)、回転(角度)、スケール(サイズ)の編集が可能です。
シェイプ(Shape)
光源の形状を設定します。
正方形(Square)、長方形(Rectangle)、ディスク(Disk)、楕円(Eclipse)の4種類から選択が可能です。
其々の大きさは下段の「サイズ(Size X/Y)」で変更が可能です。




ポータル(Portal)
屋外光を屋内に取り込む際に使用する特殊なパラメーターです。オンにすることでエリアライトは発光しなくなりますが、光が通るべき場所(例えば窓や開口部)を指定し、そこからのみ光を計算するようにBlenderに指示を与えます。これにより、特にCyclesレンダリングでノイズが減少し、レンダリング時間の短縮が見込まれます。


ON:05m09s

OFF:05m02s
上記シーンでは、屋内空間が全体的に明るくなりましたがノイズ軽減とレンダリング時間の短縮については顕著な改善は見られませんでした。
昨今ではレンダリングの最適化が進んでおり、ポータルを使用しなくても問題ない結果が得られることが多いので、必要かどうかを見極めながら適材適所での使用を行います。
広がり(Spread)
発光の形状(Beam Shape)>広がり(Spread)で光の拡散度合いを調整できます。角度に合わせて光が広がり、影の輪郭もぼやけます。

0°

90°

180°
結局どのライトを使用すればよいの?
「用途によって使い分けます」というのが月並みな回答ですが、
写実的(フォトリアル)な画を作成する場合はエリアライトを選択します。
物理的に正確なライティングとマテリアルの表現を目指すレンダリング技術を、PBR(Physically Based Rendering)といいます。PBRに則ったライティングにおいて、エリアライトが最も効果的です。
ただし、エリアライトは計算に時間が掛かります。
大量のライトを置く場合や、ライティングのクオリティを必要としないような箇所では、ポイントライトやスポットライトを使い、計算時間を軽減します。
【補足】その他のライト表現
通常の4種類のライトのほかに、HDRI画像を用いた天球によるライティングや、オブジェクトに「プリンシプルBSDFシェーダー」を適用して、放射(Emission)パラメーターによりオブジェクト自体を光源に設定するライティングの方法、実際の照明器具の光の放射パターンをシミュレートする.iesファイルを使用する方法、などがあります。興味がある人は下記リンクをご参照ください。



まとめ
Blenderを使ったライティングを3DCG初級の皆様を対象に解説しました。Blenderが用意している4種類のライトの特徴と各パラメーターの特性を解説することで、適材適所の使い分けが出来るようになります。
写実的な3DCGのクオリティアップのためには、ライティングのほかに、質感設定、レンダリングの知識も必要になります。それらの知識も網羅的に解説しておりますので、ご活用いただければ幸いです。
