ここでは、本編動画”Departure”の楽曲について、実際に動画で使用した音源を交えながら解説していきます。

本編”Departure”の音楽は製作者自らが手掛けています。



映画祭では事あるごとに映像ではなく音楽が褒められるという美大教員としては由々しき珍事が起きました。



ですが、本編”Departure”はセリフが無く状況と感情を音楽で語る動画なので「計画通り」と言えなくもありません。



映像は総合芸術(?)ですからね。ここでは製作者がどのような意図で楽曲を組み立てたかについて説明します。
BGM全景





上の画面が本編”Departure”オーディオトラックの全景です。縦軸が音数。横軸が時間です。



中盤に音数が集中しているのが分かりますね。逆に前半と後半は音数が少ないです。



このように物語の起伏に合わせて音数で分かりやすくメリハリをつけています。
使い分けられた2台のピアノ



と言っても製作者がピアノを2台所有している訳ではありません。



今からお話しする楽器の話は全てパソコンで演奏する”ソフトウェア音源”になります。
UNA CORDA



前半の物悲しい雰囲気を担当するピアノ音源です。





”フェルト系”というピアノだそうです。ハンマーが鋼をたたく間の布のかすれる音までを再現した繊細なピアノです。



最近の劇伴ではよく聞く音ですね。宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」のEDでもこのようなピアノが使われていました。





ピアノの打鍵音のほかにペダルや木の軋みなど、ピアニストの息遣いまで聞こえてくるような近い距離を感じる音源です。



この”近い距離”というのが非常に大事で、今回の”Departure”前半の閉鎖的な状況を音で説明する為に、実際にピアノと非常に近い距離で録音された音が必要だったわけです。



優しく感情に寄り添う音で、製作者曰く「腕がなくてもオーラヴル・アルナルズのようなポストクラシカル楽曲の作曲者の気分が味わえた」とのことです。
BERLIN CONCERT GRAND





中盤にかけて、一気に空間が広がる場所で使用されたピアノ音源です。



画像でお分かりのように、コンサートピアノを再現した音源で、華やかではっきりとした輪郭の音を広い空間の残響音と共に奏でてくれます。



今回の動画では後半空間が広がるので演出意図とも合いますね。



勿論感情的な表現も得意で、後半のピアノソロパートでは、現場の状況、キャラクターの感情を音色が的確に表現してくれました。
ピアノは”打ち込み”で入力





ピアノは全ての音を手入力で”打ち込み”しています(カラフルな粒粒が音符です)。



製作者は作曲教育をうけていません。楽器も弾けません。一音一音を確認しながらマウスクリックで地道な手打ちを行っています。





一応作曲ソフトが楽譜に直してくれる機能もあるのですが、楽譜が読めないですし、そもそも弾けなそうです(笑)
弦楽器



感情に寄り添う弦楽器も複数の音源を使用しています。



製作者曰く「一番好きな楽器、デザインも好き」。本編動画の中でもルカコさんの装置のロゴがf字孔だったり、かんざしがバイオリンの弓のデザインだったりします。


Session Strings PRO2







弦楽器で使用している音源ソフトSession Strings です。



画像からもわかる通り、4つの編成を再現した本格的なアンサンブルが可能なソフト音源です。



第一バイオリンでメロディ、第二でオブリ、ビオラで第一のユニゾン、チェロがベース、と担当パートと弾き方に、お作法があるようですが製作者の力量では理解できず、濁った音を出してしまうので、基本的に音色そのものの美しさを出すよう心掛けました。
ACTION STRINGS





アンサンブルを作れない製作者を助けてくれた強力な音源がこのACTION STRINGSです。
指一本でプロの演奏を再現



画面に楽譜が表示されていることに注目してください。クリックするとプロのバイオリニストが演奏したフレーズが再生されます。



しかも、音程を変えれば、音楽的に破綻なく移調します。すごいですね!



製作者は弾いてほしい楽譜をクリックするだけでプロの演奏を楽曲に追加することが出来ます。
NOVO ESSENTIALS







こちらも同様に、ボタンを押すだけでプロの演奏を呼び出せる音源です。



中盤の劇的な場面を大いに盛り上げてくれました。
ドラム
DAMAGE





盛り上がりの場面といえばドラムですね。



ドラムループ音源、DAMAGEです。その名に恥じない衝撃的な音源です。



こちらも指一本で様々なドラムをたたいてくれる有難いソフトで、誰でも印象的な劇伴のドラムを呼び出すことが出来ます。



ちなみに、製作者の一番好きな映画音楽は「Mad Max: Fury Road」だそうです。
KOMPLETE ULTIMATE



上記で使用した(NOVO ESSENTIALSを除く)音源が収録されたソフトウェア音源の製品がNative Instruments社のKOMPLETE ULTIMATEです。





製作者が購入した時はバージョン12で10万弱した大変高価なソフトです。



高価なソフトを自慢したいわけではありません。ここで強調したいことは、音楽教育をうけていない。楽器が弾けない製作者が、テクノロジーの恩恵を受けることで自分の動画に自分で楽曲をつけることが出来るという事例を、皆様にお伝えしたいためです。
「音楽の進化」は「画像生成AIの進化」に似ている?



このように、ソフトを使うことで高度な作曲技術や楽器の練習を伴わずに音楽制作が出来るようになりました。



そして、今回の音源製作者は、この「楽曲製作の民主化」の流れが、今後、画の世界にも波及するのでは?と考えています。



画像生成AIの発展による”画の民主化”というところでしょうか?



もちろん製作者は「今後画家やイラストレーターが不要になる」とは全く思っていません。



現実的に音楽界では個人による作曲環境が整った後も、たくさんの素晴らしい作曲家、演奏家の皆さんが私たちに喜びや感動を提供し続けています。



作り手として、受け手として選択肢が広がる状況にある、という事実を共有でし共に考えたいと思い、今回お話いたしました。
本編”Departure”楽曲



最後に使用したBGMをSEなしでお楽しみください!



このページを機会に、今後の制作における技術革新やAIとの関係性ついて興味を持ってもらえると嬉しいです。
まとめ
企画展【 Departure / Arrival 】



このページは企画展【 Departure / Arrival 】の為に製作されました。



Web展示室【 Departure / Arrival 】では、このページのほかにも展示物の制作過程(メイキング)や補足情報をお届けしているので併せてお楽しみください。


本編解説ページ



短編動画”Departure”は本展示会場および展示期間中は以下のページでも観ることが出来ます。





関連する解説ページも併せてごらんください。

