
【教員目線で考える】Maya vs Blender
「mayaとBlenderどちらを覚えた方が良いか」
学生さんに多く問われる質問です。
私は即答で
「両方 」
と答えます(実際学校では両方教えます)。
回答後の学生さんは大抵困った顔をします。
私としては、それなりの知見をもとに答えているのですが、やはり真意は伝わらないのが現状です。
今回はこのお悩みについて、普段説明を省いている(授業では説明している)部分を少しだけ詳しく説明します。
【AIが比較】メリット、デメリット
まずは、2つのソフトの違いを明確にしていきます。
「MayaとBlender、それぞれのそれぞれのメリット、デメリットを教えて」
という質問に
Gemini AIが導き出した答えです。

まとめると以下の通りです。
Maya | Blender | |
---|---|---|
メリット | 業界標準ソフトウェア:映画、ゲーム、広告制作などの大手スタジオで広く使用されており、業界での信頼性が高い。 高度なリギングツール:キャラクターアニメーションやリギングに強みがあり、プロフェッショナルなアニメーション制作に最適。 高品質なシミュレーション機能:布、流体、パーティクルなどの物理シミュレーションが強力。 強力なスクリプトサポート:MELスクリプトやPythonスクリプトによる高度なカスタマイズが可能。 | 無料でオープンソース:完全に無料で利用でき、個人や小規模プロジェクトにも適している。 軽量かつ高性能:Blenderは比較的軽快に動作し、幅広いハードウェアで利用できる。 統合環境:モデリング、スカルプト、アニメーション、VFX、動画編集まで一つのソフトで完結できる。 活発なコミュニティ:大規模なユーザーコミュニティによって多くのチュートリアルやプラグインが存在し、サポートが充実している。 |
デメリット | 高コスト:ライセンス費用が高く、個人や小規模なプロジェクトには負担となることがある。 高い学習曲線:初心者には操作が難しい部分が多く、習得に時間がかかる。 重い動作:大規模なプロジェクトでは動作が重くなりやすく、ハードウェアの性能に依存しやすい。 | 業界での採用率が低い:大手スタジオではMayaや他の有料ソフトウェアが多く採用されており、Blenderの使用は少数派。 リギング機能がやや劣る:キャラクターアニメーションや複雑なリギングにおいては、Mayaほどの強力さはない。 非商用ユーザー向けの印象:プロフェッショナル向けというより、個人クリエイターや小規模なスタジオでの使用が一般的。 |
MayaはCG業界標準ソフトで高コスト
Blenderは無料でCG業界での採用率が低い
これは皆さんの印象と一致しているかと思います。
しかし、
上記を立証するエビデンスをAIに要求したところ、
「ありません」との返答
そこで調べてみることにしました。
【データで検証】CG業界が使用するソフトウェアの現状
下記の内容は、国内唯一のCGプロダクション専門年鑑である『CG年鑑 2024』を元にまとめました。
この場を借りて感謝申し上げます。
お願いとしましては、電子版の出版をご検討くださいませ(手作業で統計とるの大変でした)。
CG年鑑 2024
編者:CGWORLD編集部
発行・発売:株式会社 ボーンデジタル
ISBN:978-4-86246-611-2
サイズ:A4ワイド/オールカラー
総ページ数:448ページ
383社の統計データ
※1部に部署ごとの表記があり、1社にまとめました
- 平均従業員数: 64.14人
- 資本金の平均: 14,000万円
- 設立年の平均: 2008年
- ソフトウェアの平均使用: 8.3種類
使用ソフトウェアの統計
ソフトウェア | 使用社数 | 割合 |
After Effects | 358 | 93.50% |
Maya | 322 | 84.10% |
Unreal Engine | 266 | 69.50% |
ZBrush | 265 | 69.20% |
Premiere Pro | 243 | 63.40% |
3ds Max | 242 | 63.20% |
Substance 3D Painter | 232 | 60.60% |
Unity | 218 | 57.00% |
Blender | 213 | 55.60% |
Houdini | 172 | 44.90% |
3DCGソフトウェアではMayaが8割強の使用率を占め、優位性を保っています。
一方Blenderの使用率はというと、213社/383社と、
Mayaに比べ控え目とはいえ、全体の半分を超える企業が使用しているという結果でした。
「Blender思った以上に業界で使われているんだな」
という印象です。
(個人的にはAfterEffectsが使用率トップという結果が大変興味深かったです)
企業規模と分野による違い
次に、企業規模と、分野によって、MayaとBlenderの使用傾向に違いがあるかを確認してみましょう。
企業規模は、多少乱暴ではありますが、従業員数 100 人を閾値に大企業/中小企業と2つに分け、Blenderの小規模なスタジオでの優位性について検証します。
尚、書籍に従業員数が記載されていない企業に関しては、公式Webページなどの情報を参考にこちらで内容を補完いたしました。
分野は、書籍内容から、”ゲーム系”,”アニメ系”,”3DCG/VFX系”,”映像制作系”これらに該当しない分野(モーキャプスタジオやソリューションなど)を”その他”とカテゴライズしました。
分野にまたがる企業など多くありましたので、大体の分野だとお考えいただければ幸いです。
大企業(従業員数 100 人以上)使用内訳
ソフトウェアカテゴリ | ゲーム系 | アニメ系 | 3DCG/VFX系 | 映像制作系 | その他 | 合計 |
Maya | 21 (28.0%) | 8 (10.67%) | 2 (2.67%) | 3 (4.0%) | 1 (1.33%) | 35 (46.67%) |
Maya + Blender | 15 (20.0%) | 7 (9.33%) | 8 (10.67%) | 7 (9.33%) | 0 (0.0%) | 37 (49.33%) |
Blender | 0 (0.0%) | 2 (2.67%) | 0 (0.0%) | 0 (0.0%) | 0 (0.0%) | 2 (2.67%) |
何れも未使用 | 0 (0.0%) | 1 (1.33%) | 0 (0.0%) | 0 (0.0%) | 0 (0.0%) | 1 (1.33%) |
合計 | 36 (48.0%) | 18 (24.0%) | 10 (13.33%) | 10 (13.33%) | 1 (1.33%) | 75 (100.0%) |
やはり、大企業(特にゲーム系)でのMayaの優位性は確認出来たものの、半数近い企業がBlenderも併用している点は意外な発見でした。
書籍からはワークフローまでは確認できないので、憶測にはなりますが…同じデザイナーがMayaとBlenderを併用している場合より、部署や作業分野によってMayaユーザーとBlenderユーザーが混在しているという状態にあると考えます。
以前であれば、統一した制作パイプラインをソフトウェアが担わなければならず、結果1つのソフトウェアで作業環境を統一していたところを、Substance 3D PainterやUnity、Unreal Engineといった3DCG制作を効率的に支援するソフトが充実したことで、複数のソフトを併用する環境が整ってきたことも考えます。
加えてUSDフォーマットのような異なるソフトウェア間で3Dデータを円滑に受け渡すことが可能なデータ形式の進化もこの傾向を後押しするものと考えます。
中小企業(従業員数 100 人以下)使用内訳
カテゴリ | ゲーム系 | アニメ系 | 3DCG/VFX系 | 映像制作系 | その他 | 合計 |
Maya | 25 (8%) | 16 (5%) | 36 (12%) | 13 (4%) | 11 (4%) | 112 (36%) |
Maya+ Blender | 15 (5%) | 30 (10%) | 48 (16%) | 21 (7%) | 12 (4%) | 138 (45%) |
Blender | 3 (1%) | 12 (4%) | 6 (2%) | 6 (2%) | 5 (2%) | 34 (11%) |
何れも未使用 | 1 (1%) | 7 (2%) | 4 (1%) | 3 (1%) | 7 (2%) | 24 (8%) |
合計 | 44 (15%) | 65 (21%) | 94 (31%) | 43 (14%) | 35 (12%) | 308 (100%) |
続いて、中小企業の使用内訳ですが、Blenderの使用率が若干上がっている印象があります。2%→11%という変化率を顕著なものととらえるかは意見が分かれるところです。
ヒートマップでは3DCG/VFX系に色がついておりますが、中小企業の傾向としては、分野を限定せずCGにまつわる業務全般にこなすジェネラリスト志向の企業が31%と比較的高いため、あらゆる業務に対応できるようにソフトも適材適所で使い分けているという状況が考えられます。
MayaとBlenderを併用している企業は多い
確認して印象的だったことは、思いのほかBlenderが業界内で使用されているという事実です。
1媒体のみでの検証に確証があるか、383社というサンプルが適切かどうか、議論の余地はありますが、データを見る限りでは、世間で言われている傾向が間違いではないものの、デザイナーのソフトの選択を決定づける要因としては考えづらいと感じました。
むしろ、企業が「ワークフロー主体の制作環境」から、「各ソフトの優位性やデザイナーの指向が反映される柔軟な環境」に移行している過渡期なのかもしれません。
「CG業界はMaya」という傾向は事実としてあり、これからも簡単には変わらないと予測しておりますが、Blenderの知識が業界でも役に立つという状況は皆さんも理解しておいて損はないと思います。
現状ではMayaとBlenderを併用している企業は多いことを確認して、データ検証を締め括りたいと思います。
「技術習得」と「タイパ」のジレンマ
最後に、これは職業人生の一番脂がのった20年間をCG業界に捧げ、今は教員としてCG業界に人材を送る立場の人間の、業界メタ視点の雑感です。
「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重要視する思考
最初の話に戻ります。
「MayaとBlenderどちらを覚えればよいか」
この時の学生さんの心理は
「2つもソフトを覚える意味が分からない」
「2つもソフトを覚える時間がない」
「1つ選んだとして、自分が覚えたソフトが仕事で使えないと困る」
この理由は端的に言うと学生さんの「タイムパフォーマンス(タイパ)」を重要視する思考にあると考えます。
覚えることがたくさんあって辛い

CG業界では、必要とされる知識量と業界が要求するCGデザイナーのレベルが圧倒的に高くなった現状があります。
同時に、業界が以前よりも人材育成にコストをかけられなくなったという現状もあります(これについてはまた話す機会がありましたら…)。
学生さんにとってみれば、ただでさえ少ない可処分時間にもかかわらず、覚えることは年々増え続ける。
これは高難易度のミッションです。
ソフト習得に時間がかかるうえ、似たようなソフトを2つも覚えている時間は惜しいと考えるのも無理はありません。
皆「タイパ」という言葉を憂いながらYoutube動画を1.5倍速で見ています。
昔に比べ娯楽も多くなり、高度な時間配分を要求されている大変な世代です。
最短距離で習得(就職)したい

そんな学生さんたちは圧倒的にBlender派優勢です。
「出来ればBlender1本で就職したい」という学生さんが多くなりました。
mayaに比べBlenderは書籍も動画も充実しており、覚えやすいのも重要なポイントです。
対して業界はまだmayaがデファクトスタンダード。
このギャップも学生さんからすると悩ましいところです。
あと、学生さんたちが
失敗するのを極端に嫌う(いいんですよ、沢山失敗しても)のと、
失敗を許さない現代の社会構造(世知辛い世の中です)にも原因はあると考えます。
技術習得における、銀の弾(SILVER BULLET)問題

ソフトウェア工学では、銀の弾(SILVER BULLET)などないという慣用句を見聞きします。
乱暴に言うと「これ一つで何でもOK」という安易な解決策は存在しませんよ、という意味です。
これは3DCGツールにも当てはまります。
しかし、上記の理由が相まって、現代は「銀の弾」を欲しがる風潮で蔓延しています。
そして、銀の弾(○○でプロになれる!とか)を謳うことで商売が成り立っている教育業界や商材業界という現状もあります。
それでも、技術習得にはそれなりの時間が掛かるものです。
3DCG業界においては、沢山時間をかけて得た知識と技術だからこそ価値があり、対価として相応の賃金が支払われる訳ですから。
短時間で手に入る知識と技術であれば、従事する人材も増えて、市場原理が働くと相対的に技術料は下がります。
「タイパ思考」と「技術習得には時間がかかる」という相性の悪い価値観をどう昇華させるか?
業界を目指して技術を習得する過程にある皆さんの課題です。
「銀の弾」を求めて
とりあえず、当ゼミの皆さんには腰を据えて可処分時間のほとんどをCGの習得に充てて頂きますが、やっぱり時短したいよね。
私的にはその処方箋の一つとしてAIを活用してもらいたいと考えて、「AICGゼミ」を謳い文句に日々授業を行っておるんですけど、まだまだ活用しきれておらず…。
今後「銀の弾」が発明されるとすれば、君たち若い世代の「タイパ思考」からブレイクスルーが起きると信じております。

とまあ、最後は老人のボヤキになってしまいましたが、コラムなので仕方がないですね。
皆様の検討を陰ながら祈ります。